フルートとビブラートのお話

こんにちは、フルートの坂本です。

今日は少し、フルートのお話をしようかと思います。

先日、新大阪のムラマツリサイタルホールにて、エレーヌ・ブレグ氏(https://www.heleneboulegue.com)のリサイタルを聴いてきたのですが、これがもう本当に素晴らしくて感動したんですよ。

彼女は今年の神戸国際フルートコンクール(世界でも非常に権威ある、日本が誇るコンクールです)で優勝した、今最もホットなフルート吹きの一人で、その表現の幅と変幻自在の音色、ついでにキャッチーなルックスもあり、フルート界隈だけでなく多くの人に受け入れられるビッグスターになるんだろうな、と少し偉そうにも感じました。

 

僕はもともと哲学的な(?)オーレル・ニコレ氏や、軽快なプレイで観客を魅了するランパル氏が好きなんですよね。

ちなみにこの正反対のキャラクターの二人が夢の共演を果たした名盤がこちら(http://www.muramatsuflute.com/shop/g/gC5567/)(厳密には二枚組のうち二枚目の方)。

ライブ盤で拍手の音の猛烈さにびっくりするのですが、それだけ盛り上がっていたということでしょう。

僕は高校生のころからこのCDが大好きで大好きで、フルートのCDでオススメは何かと訊かれたら、今でも間違い無くこれを推すという一枚です。

二人とも少し古い演奏家で(ランパルは2000年没、ニコレは2016年没)、「おじいちゃん奏者」とか言いたくなる雰囲気があります(なぜか若い頃の録音でもそう思う)。

 

そんなコンサバを自称する僕ですが、ブレグ氏の演奏を聴いて今の時代には今の時代にあった良い表現があるんだろうな、と思うようになりました。

特に印象に残ったのが、氏のビブラートです。

上に挙げたニコレやランパルもそうですし、現代でも多くのフルート奏者がそうですし、ジェームズ・ゴールウェイ氏など圧倒的にそうなんですが、フルートって基本的に演奏中はずっとビブラートをかけ続けて、しかもだいたい深さや回転数は一定なんですよね。

そんななかブレグ氏のビブラートは、ノンビブラートのシーンこそそこまで多くはなかったものの、曲想や場面に応じて多様に使い分けられており、氏の表現の幅の広さに貢献していると感じたのです。

どの曲のどの音も、本当に細かいところまで考えられたビブラートが使用されており、特に一部のメインに置かれたプロコフィエフのフルート・ソナタ Op.94 の第一楽章の第一音目のA音が鳥肌ものでしたね……。

 

で、まあそんなこともあって、自分もビブラートのコントロールをうまく出来るようになろうと、最近練習をしています。

しかし、長年(もうフルートを手にしてから16年も経つ!)ビブラートありきで演奏してきたため、もちろんノンビブラートや深さを調整する場面もありますが、「自分のビブラート」というものがかなり固定されてしまっているんですよね。それを見直したい。

醤油やわさびは刺身の味を引き立てる非常な大切な役割がありますが、だからといって最初っから決まった種類の醤油が魚にドバドバかかってたら嫌だよね、って感じ(?)。

これが厄介で、本来「足し算」として必要な時に現れるべきビブラートがデフォルトにあるので、それを無くそうとすると演奏中かなりの意識を割かないといけないのです。そうすると、他のことがおろそかになる。

そういうわけで、まずは意識から変えるべく、練習時にはビブラートを一切かけないようにして、ノンビブラートに軸を置くようにしました。

これがなかなか難しく、だいぶ慣れてはきたのですが、演奏を録音して聞いてみると、思わぬところにビブラートがひょこっとかかっていたりするんですよね……うーん、自在なコントロールにはまだまだ到達できませんね。

(そういえば今年の9月に、ケーナ奏者の岩川光さんのワークショップに参加したのですが、そこで岩川さんは基礎練習中のビブラートは「禁じ手」とまで表現しておられました)

 

よく古楽やバロックと言われる時代の音楽を奏する際は、ビブラートは「下品」だからかけてはいけないとか言います(もしかけるとしても喉や横隔膜ではなく、指でかける)。

じゃあいつの時代から、ビブラートを常にかけるようになったんでしょうね。ベーム式フルートになってから?

それについて、日本のフルート界を長く牽引してきた金昌国氏は『金昌国フルート教本 2』のなかで、「どういうわけかかなり長い間フルートにはヴィブラートは使われ」ていなくて、「ドイツのオーケストラでは、第二次大戦までヴィブラートなしで演奏していたよう」だと指摘しています(p.33)。思ったより最近ですね。

またそのあとで「現代ではヴィブラートなしでフルートを演奏することは考えられません」とも述べています。

これ以上のことは手元の資料では確認できなかったので、また調べていきたいところです。もし詳しい方がおられたら、ぜひ教えてください!

 

そういえばジャズでも、ジェレミー・スタイグ氏のようにフルート専業のプレイヤーと、フランク・ウェス氏やエリック・ドルフィー氏のような他の楽器もこなすプレイヤーとでは、ビブラートの印象もかなり違いますね。

まあ曲やフレーズなどビブラート以外の要素もかなり違っていますし、年代にもズレがあるのでなんとも言えないのですが。

こんな感じで、いろいろな奏者のビブラートのかけ方を比較しても面白いかもしれません。

 

さて、最後になりましたが、融解建築の主催イベント「第五回多次元演奏会」まで、ちょうどあと一ヶ月です!

来年1/21、京都・CLUB METROでお待ちしております!

僕のビブラート研究の成果はあるのか、乞うご期待。

 

……全然「少し」じゃなかった。

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